剣、池の平小屋番「木下さん」を訪ねて


日程     2006,9,29(前夜発)〜10,1(日)
メンバー   L 加藤征 長谷川タカ子 八尾増子
記録

9月29日(金)前夜発
 上野発(28日 PM23:33)ー魚津ー宇奈月ー欅平ー阿曽原
      (29日 AM9:20)−阿曽原峠(10:15 気温18℃)−仙人湯小屋(12:45)仙人峠(13:45)ー池の平小屋(15:25)泊

7月半ばから、小屋番をしている木下さんの陣中見舞いに行って来ました
ヒゲを蓄え、小屋番として日々自信をつけているという木下さんに会うのは楽しみでした、加えて40年ぶりの富山県側からの入山と、初めての池の平からの眺めも楽しみでした、池の平小屋は、北方稜線の入り口にあり、富山方面に降りる人の宿でもあります ただ、有名な仙人池ヒュッテが近くにあり、北股コースが今年は閉鎖されている事もあって、宿泊客は多くはありません、それでも”地図にある小屋が勝手な理由で閉めていいのだろうか”という木下さん流の責任感と、登山者への配慮から、10月半ばの閉山まで頑張るという快晴で大汗をかきながら、樹林帯、幅のない水平道、ザラザラ滑りやすい不確かな道、雪渓、沢沿いの岩道と・・・なまった身体には緊張の連続で、6時間かかって小屋に着きました。小屋は剣東面の名峰を目の前に、湿原、地塘がすぐ下に広がる素晴らしい所に建っていました、トイレ、小屋、厨房は清潔で気持ち良く整えられ、なつかしい感じのする小屋になっていて、木下さんの仕事ぶりがうかがえました、”木下さんが入って来た”ヒゲがなくなっていて、いつものように照れくさそうで、シニカルな笑顔の木下さんだ ”毎日、なんとかやっているョ(寂しくもないし、大変でもない)”と言っている、でも言葉と裏腹に、長年の友人の加藤さんに会って笑みがこぼれている、 女性二人は刺身のツマで添えもの”だ、邪魔にならない程度に手伝い、七人分の夕飯が出来た、キャベツ、キュウリ、コブノサラダ風つけもの、肉ジャガ風スープと木下さんの得意料理もあっておいしい今日の客は黒部では著名なガイド、志水さんと2人の客、そしてその1人を長谷川さんが知っていてびっくり。加藤、木下、2人の会や山への熱い語り合いを子守唄に眠りにつく。

9月30日(土)
 池の平小屋(AM8:10)-小窓雪渓(9:55)−小窓尾根の雪渓(11:22)−小窓乗越(12:30)ー池の山分岐(13:25)−池の平山ー池の平小屋(16:00)

4時に起き、チンネの左稜線に登る3人の朝食作りを手伝い、平ノ池で”水にゆらめく”チンネや八ッ峰を見ているうちに、異次元のの世界に引きずり込まれる不思議な体験を味わう、何の準備もして来なかったし、手伝いに来たのだからと、あきらめていた北方稜線あるきに、加藤さんが案内してくれる”小窓乗越の先まで”ワクワク、ドキドキ、冷や汗もかき稜線歩きを楽しんだ、木下さんを手伝う加藤さんと別れ、女性二人で池の平山へ、一時間で頂上の筈が、行けども、行けども、先に道があり、結構なアルバイトで静寂な頂上に到着。 冬毛に白く変わりはじめた雷鳥5羽が、のんびり先導してくれたり、彩づきはじめた秋の山を存分に楽しみ、夕飯の支度にも間に合う”はなれ技で長い一日を終えたこの日も小屋は、ベテラン登山客2人、テント場にも3人、やっぱり大切な小屋だ。

10月1日(日)
 池の平小屋(AM7:10)−仙人池ヒュッテー仙人温泉(9:50)−阿曽原(12:00)ー宇奈月

今日も快晴、刷毛で掃いたような高層雲が、秋の空を一層、碧く深い色にする、強い陽射しに焼かれながら、注意しながら下山した別れる時、木下さんは一瞬、寂しそうにし目をそらした、今日も宿泊客があるらしい、熊がすぐ近くに出るような山の中で、どうして小屋番が出来るのか、不思議だった、そして、たった3日体験しただけで断言は出来ないが”ここでは生きる事”が実感出来る、下界では見えにくくなってしまった”本当のこと”が見えてくるような気がする・・・山に深く親しむ岳人が訪れ、憩い、あるいは道中で生命を失うことすらある(木下さんが握ったおにぎりを持って出発し、北方稜線で亡くなった若者もいたという) そうした人との触れ合い、ひとりですべての事をやり、小屋を支えている自負と責任感、近くの小屋番とも信頼出来る関わり、常連といわれる人達との宴、岳人なら一度はやってみたい事なのかもしれないが、強固な意志のない凡人である私には無理だ!山を下り、重い仕事を終えた”木下さん”がまたひとまわり大きくなって我々の前に出現するのを楽しみにしている・・・

                                                               (記 八尾増子)